クロマンサ
「ちっ!」
セインは両手を前方に向け、小規模の結界を展開させる。
羅刹が続けて放った真空波を結界で防いだ時にはセインが放った炎は掻き消されていた。そして、彼の視界から一人の人間が消えていることにも気付いた。
刹那、セインは振り向きざまに、剣撃を放つ。
その軌道上には背後を取った羅刹の刀の輝きがあった。
剣と剣の打撃音が室内に響く。
間合いを取った二人は、しかし瞬時の内に肉薄し、激しい剣撃を応酬し始めた。
辺りには鈍い金属音が響くのみ。
城内は完全な混乱に陥っていた。
指揮者の羅刹が不在の時に、街に奇襲を掛けられた為だ。
月夜の近衛隊を除く兵士達はそのほぼ九割近い兵力を街の外壁を守る為にあてていた。
残る一割の兵力ではセインが鍛え上げた精鋭の暗殺部隊が城内に侵入することは防ぎきれなかったのだ。一部の暗殺部隊は月夜の眼前にまで迫っていた。
城の近衛隊と暗殺部隊の小競り合いの中から、一人の人間が抜け出た。
彼は剣を片手に月夜目掛けて切り込んでくる。その時、僅かに空間が揺らいだ。
「……消えろ」
月夜の隣りでアシュタルが右手をを翳し、茫洋と呟いた。
それと同時に、若者の肉体は青い灼熱の炎に包まれた。
炎は、悶えながら床を転げ回る青年の体を完全に焼き尽くした。骨どころか、彼が身につけていた鋼鉄の鎧さえもアシュタルの青い炎は溶かしてまった。青年が消滅すると同時に、アシュタルは前方に左手を向けた。左手が淡い光に包まれ始める。
それを月夜が静止する。
「アシュタルッ!」
アシュタルの手を月夜の小さな両手がぎゅっと握り締めている。今、アシュタルは味方もろとも敵を攻撃しようとしたのだ。それに敵とはいえ、あんな惨い殺し方はあんまりだ。
月夜がアシュタルに視線を向けている僅かな間に、月夜の近衛隊は暗殺部隊によって
全滅させられていた。
「……これで遠慮する必要はないな」