ネマンサー
降り注ぐ光の矢の中、
「……サン、攻撃が止んだら撤退だ……」
ユートは俯き悔しそうに呟いた。
「大丈夫よ……残った彼等がいい結果を持ってきてくれるわ」
サンは結界を展開させながらユートを気遣ってそう言った。
しかし、二人にはもうわかっている。アシュタルに逃げられては『死霊使い』の暗殺は失敗するだろう。自分達に出来る事は犠牲を承知の上で、これよりも大規模な戦闘を行い『死霊使い』を殺すしかないことに。
その頃、月夜は必死に逃げていた。顔には汗が浮かび、ちらりちらりと背後を振り返りながら走り続ける。背後からはあの暗殺者達の足音が響いてくる。
あの二人がここに来る、ということは、アシュタルはどうなったのだろうか。
しかし、彼の安否を気にしている暇はない。今は自分の身に襲いくる相手をどう振り切るか考えなくては……
何としても逃げ切らなければ。
しかし、月夜の姿は暗殺者の視界に捉えられてしまった。
まずいっ!追いつかれてしまった!息を切らしながら逃げる月夜だったが……
「……そんなっ!」
前方は巨大な落石で塞がれていた。呪力による援護射撃で天井が破壊されていたのだ。
振り返る月夜の目には、一人の暗殺者が剣を鞘から抜き払うのが映っていた。
月夜はじりじりと後退する。暗殺者は息を整えながら月夜との間合いを詰める。
しかし、暗殺者は月夜との間合いを詰めても一向に斬りかかる気配がない。その顔には何かを押し殺したような表情が浮かんでいる。
「……許してくれ、とは言わない……こんな事は許されることではない……だが君の存在は私達にとっては……死神そのものなのだ……」
再度剣を上段に構える暗殺者。
そしてその剣を振り下ろそうとすると、
「月夜っ!伏せろっ!」
月夜の視界に羅刹の姿が飛び込んできた。月夜は咄嗟にしゃがみ込み眼を閉じた。
慌てて暗殺者は月夜目掛けて剣を振り下ろそうとしたが…
月夜が恐る恐る眼を開けた時には、血だらけになって倒れている暗殺者の姿があった。羅刹の真空波が彼の肉体を直撃したのだ。
「……間に合ったか……」
羅刹は血を吐き出しながらその場に膝をつく。
「羅刹さんっ!」
悲鳴をあげて羅刹に駆け寄る。
「……怪我は……ないか?」
羅刹は自身の怪我にも関わらず、月夜の安否を気にした。月夜は啜り泣きながら、
「私は大丈夫。羅刹さんの方こそ…」
どう見ても大丈夫ではない。
自分にも出来る初歩の回復呪法を羅刹の胸に当てて、治療しようとする。
しかし、
「ラファエルッ!くそっ!」
まだ、もう一人いたか。羅刹は痛む体に鞭打って立ち上がる。
抜刀して駆け出す暗殺者。羅刹も抜刀し、暗殺者に斬りかかろうとしたが、
「!」
羅刹の体は先程真空波で仕留めたはずの暗殺者に後ろから両腕を押さえつけられていた。その眼にはさっきまで月夜に同情していた優しさはない。